差別問題を扱ったゲームは何点か思い当たるので、複数回記事を書くかもと言いましたが、早速お手本のような「悪い例」が見つかったので新鮮なうちに書いておきます。
それは以前紹介記事を書いた和風伝奇アドベンチャーRPG『剣が刻』です。
本作の舞台である中津国には様々な種族が存在します。
最も数が多く文化的にも栄えている「人族」
人族から迫害されている「鬼族」
争いを避けて様々な場所へ移り住んだ「妖族」
そして未だハッキリとした定義が不明な「マレビト族」です。
※本旨とは無関係ですが、筆者は民俗学をかじっているのもあって、「マレビト」本来の意味の説明をしないまま作中用語としてしまうという、既存の言葉の扱いの適当さにも不信感を持っています。
中津国では４００年前に大飢饉による食糧難が発生しており、そこで人族と鬼族の間では戦乱が巻き起こったそうです。敗北した鬼族は中津国の中枢から追いやられ、散り散りになって（自主的にではなくほぼ流刑です）貧しい暮らしをすることを余儀なくされました。飢饉にまつわる戦いについてはまだ詳細が描かれていませんが、鬼族は敗北後、人族から帯刀を禁じられたりなど、かなり不平等な扱いを受けたようです。
しかもそれは４００年後である作中の時代でも続いています。４００年ですよ。相当な長さです。食糧についてですら、人族のようなものは未だに口にできないほど苦労しているという描写があります。質素な食べ物を好むキャラが多いのもそのせいでしょう。甘味や豪勢な食事などは、何しろ口にする機会がないのですから。
以前記事に書いたとおり、私はこのタイトルを、若干不安要素があることは理解しつつもそれなりに気に入ってプレイしていました。しかし、最新章のストーリーを読んで「これはもう支持できない」という考えに至りました。
これは鬼族である葵というキャラクターが、主人公に助けられたことから人族に歩み寄ることを決め、同じ鬼族に言い聞かせているシーンです。
主人公は「人間」なのかもしれませんが、この世界の「人族」ではありません。未来あるいは異世界から来た異邦人です。つまり、彼女を助けたのは差別側の人族というわけではありません。あれだけ憎んでいた、実際に彼女ら鬼族に酷い目に遭わせてきた人族に歩み寄ると決断する理由……なくない？
私は基本的に「今は〇〇と××で争っている場合ではない」というセリフはどんな場面でも通用しないと考えています。なぜなら、共通の敵を倒した後は同じことが繰り返されることがほぼ約束されているからです（もっと現実に寄せて考えた場合は、共通の敵がいる間であっても、被差別側はまず差別側よりも危険な戦地に優先的に送られることになるでしょう）。
しかも被差別側にこれまでの仕打ちを棚上げして歩み寄りをさせるという傲慢さ。あ、差別側が言うのは当然もっとダメです。つまりこのセリフ自体、よほど練られた展開でない限りフィクションにおいて使用するに値しないということです。
それなのにこのセリフがフィクションにおいて多用されがちなのは、はっきり言ってセリフを書いた人間がそこまで思い至れないマジョリティ側の人間であって、ようするに差別問題について真面目に考えたことがないからです。多分これは「いいシーン」として描かれているのでしょう。なんという薄っぺらさでしょうか。あまりにも浅すぎて逆に泣けてきました。
さらに悪いことに、鬼族って架空とはいえ大陸風の衣装を着ているんですよね。中国の会社との共同開発でそれって何？ 許されるの？ 許されるわけないのでは？
以前の記事では「架空の被差別種族である鬼族がいるのに実在のアイヌであるシャクシャインをキャラクターとして出したのは何故か、本人に故郷を”蝦夷”と呼ばせている時点で真面目に取り扱う気配が微塵も感じられないのだか大丈夫か」という点を問題点として挙げましたが、何のことはない、「何も考えていない」だけだったようです。
私はRejetのブランドカラーは好きではないものの、社長である岩崎氏にはある程度の信頼を置いていました（理由は、本人が「自分はかっこいい男性キャラクターが好きだから乙女ゲーを作っている」と公言しているからです。業界の有名人が公言することは、乙女ゲームやかっこいい男性キャラを好んでいることを表立って言いづらい男性へのエンパワメントになるし、良いことだと考えます）。
しかし、これに関して舵取りできていないならもうがっっっっっっっっっっかりです。私が知る限り岩崎氏は元教師ですよね。なら余計に悪いですよ。子供たちに何を教えていたんですか？
以下、「お問い合わせ」から送った「ご意見」を載せます。これが私の現時点での見解です。
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こんにちは。立ち絵のアニメーションの美しさやSDキャラの可愛さ、細かなモーション、凝ったバトルシステムなどにいたく感動し、リリース以来楽しませていただいておりました。
しかし、ストーリーを読んでいるうち、特に最新章ラストを読んだ後はそれらがどうでもよくなる程度には非常に落胆しました。鬼族に犯罪者が多いのは「信用ならないから」まともな仕事に就けないからなのに、「これだから鬼は」という扱いを受けたり、鬼＝犯罪者扱いされるから角を隠さずには人里で生活するの難しい、という設定なんですよね？ 鬼族が今なお人族から迫害されているのは事実なのにも関わらず「大昔のことを引きずっている」などと他のキャラに言わせたり、最新話では鬼族である葵に「今は鬼と人が争っている場合ではない」と鬼族に言い聞かせる形で言わせましたね。
差別問題への理解のなさ、扱いの適当さに驚きました。現実の差別問題をなぞっているとしか思えない設定をつけた上でこんなセリフ、通用すると思うんですか？ 本気でそう思っているなら考えが浅いです。薄っぺらすぎます。
しかも葵を助けたのは「人族」ではなく主人公という異邦人でしょう。種族自体に歩み寄る理由があるとは思えませんでした。
表面的に「それっぽく」したかっただけで、御社が差別問題について真面目に扱う気がないのはよくわかりました。中国の会社と共同開発しているのにも関わらず、大陸風の衣装を着た種族にこんな扱いをするって、色々な意味で大丈夫ですか？
以前から、今も和人による差別を受けているアイヌのシャクシャインについてどう扱うつもりなのか注目していたのですが、先ほどの展開を「いい話」として作っていたつもりなら、こちらも一切期待できません。「アイヌとかなんとなくかっこいいから」等という無責任な理由で出したと思わざるを得ません。本人に故郷を“蝦夷”と呼ばせている時点で嫌な予感はしていましたが、やはり何も考えていないみたいですね。
この辺りを真剣に捉えて改善する気がないなら、このタイトル支持し続けることは不可能です。ビジュアルは気に入っていただけに残念です。
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この手の「ご意見」に返事が来るかどうかは知りませんが、年始の業務再開後しばらくはとりあえず待ってみようかと思います。
※12/29 11:40追記
意味不明な返信がきたので次のように返しました。
意味不明すぎたんですが、無断転載禁止らしいんで返信内容がわかるように書いてます。
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***というタイトルで先ほど返信いただいた者です。
詳細な仕様や運営意図等について質問したとは誰のことですか？
さきほどのは質問じゃなくて一ユーザーからの「意見」です。最初に抱いた好意的な「感想」と、差別問題に対する認識についての「意見」ですよ。何でそういう返信になるんですか？ 本当に読んだんですか？ テンプレ回答としてもおかしいですよ。運営意図とか仕様は一切聞いてませんし興味ありません。回答を求めた覚えもありません。「感想や意見はいらない」ならそう書いてください。意味不明な返信ならしなくて結構です。
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※12/29 18:35追記
プロジェクト統括のRejetに直接問い合わせた結果か、あるいは流石に怒りを感じ取ったのかわかりませんが、ご不快テンプレ構文が届きました。わー初めてもらった！ クソウケる〜（ウケない）
指摘については真摯に受け止めるそうです。最初の対応があれだと全然信用できないんですけど？ なにこれ？ 最初から返事求めてなかったのにやらかしすぎでは？ 私は意見を伝えてチームに共有して欲しかっただけですよ。
ただでさえ脳の機能に支障が出ているのにまったくもって時間の無駄なやりとりをしてしまった。Rejetからの返事があるかは知りませんが一応仕事始め後数日は待ってみます。本当に共有さえしてくれれば返事なんかなくていいです。意味不明な返事するよりいいゲーム作ってくださいよ。
ゲームってなんだろうな〜。エンタメってなんなんだろうな〜〜〜〜……
なんで素直に楽しませてくれないんでしょうか〜〜〜……
いや理由はわかってんですよ……「そういうの疎いからわかんない」とかほざいて指摘するまでなーんにも考えないあほんだらばっかりだからなんですよね〜……しかも「言ってくれれば良いのに」とかマイノリティ側に説明を強いるんですよね〜……それ加害なんだよね〜……知ってた？ 知らないか〜……説明したところで頓珍漢な解釈しかできないんだよね〜……
とりあえずそんな傲慢なマジョリティ様は、ゲームを作ったり遊んだりすることは可能なんだから、これを読んで⑦の項に親切に付記して差し上げた御本でも読んだら良いんと違いますか。ゲームはできるのに「本とか読めな〜い」とかほざくなら最初にあげた本がおすすめですよ。子供向けだからね。
