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ミュージカルは歌がよければだいたいのことは解決する、が……〜ミュージカル『天使にラブソングを』の話

まだやるべきことができていないのですが、前回から日にちが経ってしまうとなんとなく不穏な印象を持たれてしまうかもしれないので、先日観た日本版ミュージカル『天使にラブソングを』の感想を軽く書きます。

 

自分が観た回は森公美子さん主演の回だったのですが、もう歌も演技もめちゃくちゃよかったです。そしてみんな歌がうまい! 歌がうまいというのは技巧が素晴らしいというだけの話ではなくて、歌に役の全てが詰まっているということです。人物の感情をメロディにのせて歌うことで、セリフでは建前を口にしても歌では正直な心が露わになる。それがわかりやすく伝わるし、演出としても好みです。単純に歌が好きというのもあります。キャラソンが好きというのも概ね似たような理由ですね。

 

個人的にストレートプレイよりもミュージカルのほうが好みなのですが、たとえ台詞が聴きとりづらくても展開に無理があっても、歌さえ良ければだいたい解決してくれるというのが大きいです。

アニメ『スタミュ』二期の終盤が気に入らなくてもカーテンコールが良すぎてどうでもよくなっちゃったっていう話はそういうことです。って書きながら三期を途中から見てないことを思いだしました。

 

私はあまり映画を観るのが得意ではないので映画版を知らず、事前情報もいれずに行ってしまったため、どうアレンジされているのかはわかりませんが、「自分の夢(歌手としてスターになること)のために好きに生きているように見えている主人公が、実際はろくでもない悪い男たちに利用されている。彼女はとある切っ掛けからまったく価値観の異なる女たちが集う修道院で過ごすことになり、最初は反発するものの、聖歌隊の指導をしていくうちに、彼女たちとかけがえのない友情を育むことになる。修道院で過ごした日々によって、主人公は自分の本当に欲しかったもの、やるべきことを見出す」……というのがだいたいの筋書きです。

主人公が修道院を去る際、「私はスターになりたいの! こんなところでおとなしくしていられる人間じゃない!」とひとり自分に言い聞かせているところで、ふと頭によぎるシスターたちと過ごした思い出と友情が、彼女の本当の気持ちを呼び起こす……という流れ、歌の入り方、演出がとても良かったです。自分でもなんだかよくわかりませんがこのタイミングで感極まって泣きました。

出会った時からずっと対立していた頭の固い修道院長が、最終的には「価値観や宗教観はまったく異なるけれど、互いに思っていることは本質的に同じ」であると言ってくれたことには心を打たれました。何にでも通じる問題ですが、表面的なことにばかりとらわれていては思い込みや誤解が生じて見えなくなってしまうけれど、本来の願いは共通している……というのは、実際にはなかなか気付けないけどよくある話ですね。性格や何やらがとことん合わなくても想いが同じなら助け合うことはできるはずなのですよ……ね……

男性に搾取されている立場からの脱却と、女性同士の繋がりが濃く描かれているので、フェミニズム作品としても評価できるのではないかと思います。

 

ただし、これは本当に大きな問題だと感じたので指摘します。いくら過去の作品のリメイクだとしても、いま上演するのであれば、「異性装をしていると思しき人を“女装男”呼ばわりした挙句、ウィッグや衣服を剥ぎ、それに怒った本人に暴れさせる」というシーンは絶対に削るべきでした。「主人公に似た風貌の人が実際は別人だった」という展開が絶対に必要であったとしても、代替案はいくらでも用意できたはずです。

しかもおそらくこれは“テレビ的なお約束の笑いどころ”として演出されていたと思われます。実際に劇場の中では笑い声が聞こえていました。未だにこれを“笑えるネタ”と捉えている人たちがそれなりに多いことは知ってはいましたが、いざ目の当たりにすると改めてショックを受けるものですね。

件の登場人物の性同一性は不明ですが、差別や偏見を助長する表現は本来あってはなりません。倫理的にも当然ですが、作品の主題とも矛盾します。そこに気付ける関係者はいなかったのでしょうか。

特に昨今はトランスジェンダー(特にトランス女性)への差別が激化していているというのに、この演出はありえません。この点は本当に本当にがっかりでした。