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乙女ゲームの異性愛規範とジェンダー規範

前回の記事で乙女ゲームの定義を「主に異性愛者の女性をターゲットにした恋愛ゲーム全般」としたからにはこの話をしなければならないと思います。というわけで、自分が長年乙女ゲームをプレイしていて気になっている部分について書いていくことにします。

乙女ゲームに限らない(恋愛系のゲームであれば当てはまる)内容が多いのですが、自分が主にプレイしているのは乙女ゲームであるため、ここではそれについてのみ言及しています。

 

 

異性愛規範

乙女ゲームが題材にしているのは「恋愛」。人と人の繋がり、心の通い合い、丁寧に描かれていく関係の変化。私はこれが見たくて乙女ゲームを遊んでいます。

主人公と攻略対象の恋愛が良いものとして描かれるのは、そういうゲームなのだから何の問題もありません。気になるのは、多くの場合、異性愛のみが正しい愛として存在している世界に「見える」ことです。ゲームの主軸が異性同士の恋愛である以上、攻略対象は異性を愛せる人物である必要があるのはわかります。しかし、周囲までも異性愛者または異性愛を推奨する人物で固める必要があるのでしょうか?

登場人物らは時に、男性同士で仲良くしていると「男同士で気持ち悪い」などとホモフォビックな反応を示すことすらあります。主人公や攻略対象に助言する立場のキャラクターは、常に彼女/彼らが異性と結ばれることを望みます。モブキャラクターたちも、さながらクリスマス前に恋人を作らなければと焦る人たちのように、異性にモテたい、彼氏がほしい彼女がほしいとこぼします。主人公と敵対する立場であり、恋愛に関心があるとは思えないキャラクターは、プレイヤーに攻略させてほしいと望まれれば続編などでその立場になることがあります。

乙女ゲームの制作側が想定しているプレイヤーは異性愛者の女性であり、ゲームは彼女らが異性のキャラクターとの疑似恋愛を楽しめるように作ってあると思われます(主人公に自己投影するか、主人公を一キャラクターとして見るかは人それぞれ)。しかし実際のところ、プレイヤーには色々な人がいます。女性とは限らないし、性的指向も同性愛者であったり両性愛者、全性愛者、非性愛者、無性愛者であったり様々です。異性愛の物語をエンターテインメントとして楽しめる人であれば、誰だってプレイヤーになりえます。

異性愛者しか存在しない世界は、そのようなプレイヤーに窮屈な思いをさせてしまうでしょう。異性愛をメインにするにしても、否するからこそ、現実に存在する他の性的指向を持つキャラがいたって、恋愛しないことがアイデンティティとして成立するキャラがいたっていいと思うのです。攻略対象にしても、必ずしも異性愛者である必要はないはずです(たまに両性愛者かなと思うキャラはいるけど明示はされないし)。

 

ジェンダー規範

男女の関係を描いているためなのか何なのか、「男かくあるべし」「女かくあるべし」という保守的な考えが根底にある場合が目立つように思います。わかりやすいところを挙げると硬派/俺様系と軟派/チャラ男系の価値観。前者の場合、男は強くあるべきで女は守られ従うもの。後者の場合、男は女をはべらすもので女は男に群がるもの。いずれの場合も、主人公がそのセオリーを破ることで「こいつは他の女とは違う」と思い始める……というのがお約束の展開ですが、そもそも主人公だけが違うんじゃなくてそんな男女観が間違いでしょう。人それぞれ! はい復唱! 特別感の演出は必要かもしれないけど何か他にないんかい!!

それとよくあるのが、ちょっと家庭的なことをしたり甘いものが好きだったりかわいいものを好んだりすると「やっぱり女の子だな」と言われたりすること。なんという旧的な価値観に基づく台詞であることか。好きなキャラに言われるとより一層がっくりきます。そこで「女の子じゃなくても◯◯する」という反論があって、言ったキャラが反省する……というやりとりがあればまあいい(あんまりよくない)のですが、大抵は主人公、喜んじゃうから。プレイヤーがげんなりしてても喜んじゃうから!!

システム的にいうと、ときメモGSの着替えとかでしょうか。着替え自体はいいんですよ、好きな服装でいるのは基本的に楽しいですからね。しかしデート相手にファッションチェックをされるのはなんというか。好きな格好してケチつけられたくなくないですか? 好みの服装にしないと好感度上げにくいのってなんというか。男の好みに合わせろということですか? はーん?

やや主旨から外れますが、乙女ゲームって結構いわゆるオネェ口調のキャラクターが登場している印象を受けます。作中で明示されていない限り、単にそういう口調なだけなのか、性自認性的指向が何であるかは不明なのですが……フィクションにおいては、オネェ口調は性的マイノリティの記号的に扱われることが多いのが現状です。で、この手のキャラは大体ファッションや恋愛についてのアドバイザーの立場を取っているんですが、ちょっといくらなんでもステレオタイプすぎるというか描き方に問題がある場合が多いです。性的マイノリティ(と思われる)のキャラが「女性らしさの押し付け」とも言える行為をしがちな人物として描かれるのはいかがなものか。面白キャラとして作っているつもりならもう古いからやめてくれんか。当事者がプレイヤーにいる可能性だって大いにあると思います。当事者じゃなくたって嫌です。

 

③最後に

私は乙女ゲームを愛しています。そこに描かれる愛は素敵なものだ。しかし素敵と感じるのは「主人公と攻略対象の間に生まれる愛」なのであって、異性愛だからではないのです。

異性同士のカップリングならこういうのが好き、等の好みはあります。しかし、私が素敵だと感じた愛が、「異性同士だから仲良くなれば恋愛に発展して当然だ」という価値観のもとで育まれた愛であって欲しくはないのです。